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三浦康子

POSTED BY 和文化研究家 三浦康子 掲載日: NOV 1ST, 2022.

11月の手紙やメールで使いたい「季節の美しい日本語」

冬の足音が聞こえてくる11月。日本には、その季節に合った美しい言葉がたくさんあります。手紙やメールにその時季ならではの言葉を使うと、心が和みやさしい気持ちになれるでしょう。そこで、各月に使いたい言葉を3つずつ、和文化研究家の三浦康子がご紹介します。11月は「小春日和」「時雨」「酉の市」です。

11月の美しい日本語~小春日和(こはるびより)

小春日和とは、旧暦10月ごろの暖かく穏やかな晴天のことをいい、新暦では11月ごろに使います。秋から冬へと移るこの時期は、まるで春のような陽気が続くことから、小春日和と呼ばれるようになりました。

小春のつく言葉も多く、小春日和の日を「小春日」、小春のころの穏やかに晴れた空を「小春空」、小春のころに吹く風を「小春風」、小春のころの穏やかな海を「小春凪」といいます。

また、小春日和に誘われて春夏の花が2~3輪咲いていることがあります。これを「帰り花」「返り花」と呼びます。桜、桃、山吹、躑躅(つつじ)などにみられる現象で、時ならぬ花は不思議と心に残ります。「忘れ花」「狂い咲き」という呼び方もありますが、それぞれ少しニュアンスが違ってきます。

<例文>

  • 小春日和で気持ちがいいので、一緒に出かけませんか。
  • 今日は穏やかな小春日となりましたが、向寒の折柄、ご自愛ください。
  • 小春日和で桜が咲いているのを見つけました。帰り花ですね。

11月の美しい日本語~時雨(しぐれ)

晩秋から初冬にかけて、急にぱらぱらと降り出しては止んでしまう通り雨を「時雨」といいます。通り雨は雨の降り方を表す言葉で季節をとわず使えますが、晩秋から初冬と季節を限定した通り雨が時雨です。俳句では冬の季語になっています。

似たような言葉に「秋時雨(あきしぐれ)」、「秋雨(あきさめ)」がありますが、秋時雨は秋の時雨、秋雨は秋の長雨をさし、いずれも秋の季語です。

また、時雨のつく言葉はたくさんあります。たとえば、蝉が鳴きたてる様子を時雨にたとえた「蝉時雨」、秋の虫なら「虫時雨」、木の葉なら「木の葉時雨」。朝に降れば「朝時雨」、夕方なら「夕時雨」、夜ならば「小夜時雨(さよしぐれ)」。今にも泣きそうな気持ちを「時雨心地」といいます。それぞれの様子が伝わってきますね。

<例文>

  • 先ほどは傘を差そうかどうか迷う時雨でしたね。
  • 夕時雨の中、急ぎ足で家に帰りました。
  • ふとこぼれた涙を小夜時雨のせいにして別れました。

11月の美しい日本語~酉の市(とりのいち)

kuremo / Shutterstock.com

「酉の市」は日本各地のおおとり(鷲、大鳥、大鷲)神社の年中行事で、11月の酉の日に賑やかな市がたちます。酉の日は12日ごとに巡ってくるため、11月に3度行われる年もあり、それぞれ「一の酉」「二の酉」「三の酉」と呼びます。2022年は11月4日が一の酉、16日が二の酉、28日が三の酉です。

酉の市の名物は、福をかき集めるという縁起熊手。熊手に打ち出の小づち、鶴亀、松竹梅など縁起の良いものがたくさんついており、新年の開運招福、商売繁盛を願う縁起物として親しまれています。

縁起熊手は、毎年ひと回り大きなものに買い換えると良いとされ、値切れば値切るほど縁起が良いそう。この買い方がとても粋で、最初に値段を聞き、何度も値切ってから、最初に聞いた値段で支払い、値切った分はご祝儀として渡します。こうして、買った(勝った)まけた(負けた)と気っぷのいいやり取りをすると威勢よく手締めが打たれ、ご祝儀を出したお客はお大尽気分を味わい、ご祝儀を貰ったお店は儲かった気分となり、周囲の人達も手締めに参加してご機嫌になるのです。買った熊手は、大きな福をかき込むように高々と掲げて持ち帰り、玄関などの入り口に向けて少し高いところに飾るか、神棚に供えてお正月を迎えます。

<例文>

  • 酉の市で賑わう頃となりましたが、お元気ですか?
  • 今年は三の酉まであるので、都合をつけて行ってみたいと思います。
  • さらなる成長を願い、ひとまわり大きな縁起熊手を選びました。

11月は冬の入り口。この時季ならではの言葉をうまく取り入れてみてください。

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三浦康子

Yasuko Miura/和文化研究家

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、Web、講演などで活躍中。「行事育」提唱者。All About「暮らしの歳時記」、私の根っこプロジェクト「暮らし歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭もとる。著書『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)、監修書『季節を愉しむ365日』(朝日新聞出版)ほか多数。

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