コロナ対策!お店やクリエイターさん応援企画 【イエモネ、エールもね!】
この記事では、自宅で映画を見ることでお気に入りのミニシアターを応援することができる企画「仮設の映画館」を紹介します。ミニシアターで働いた経験のある映画好きの筆者が、ミニシアターの思い出と共に「仮設の映画館」の仕組みを解説。さらに「仮設の映画館」で上映される作品の一つである『タゴール・ソングス』の監督にインタビューし、今こそ、この映画を見てほしい理由を綴りました。
>>>コロナ対策!お店やクリエイターさん応援企画 【イエモネ、エールもね!】とは?
私とミニシアター:切っても切れない関係
ミニシアター。大手のシネマコンプレックスとは対照的に、映画会社に属さない独立した映画館を指す言葉です。大規模な商業映画ではなく、インディー作品や世界各国の作品、ドキュメンタリー映画、新人映画監督のデビュー作、そして時には昔の名作を上映する「映画の宝箱」ともいえる場所です。
ミニシアターを訪れたことのある人ならわかると思いますが、ミニシアターの魅力は上映される映画そのものだけでなく、その空間全体が持つ雰囲気にあります。薄暗い階段を降りていった先にある小さなカウンター。ちょっとそっけない態度でチケットをくれるスタッフ。開場を待っているうちに、腕がこれから見たい映画のチラシでいっぱいになる。劇場はスクリーンが中央ではなく右にずれていたり、椅子の種類が統一されていなかったり、お手洗いがスクリーンの真横にあったり、頭上を電車が走る度にガタガタ震えたりと、なんともカオスな状態。しかしそのカオスが、その自由が、同時に何とも心地がよいのです。
思い返せば、大学時代初デートで行ったのがミニシアター。その後も数え切れないほど足を運び、2年生になる頃には新宿のミニシアターでアルバイトを始めました。誰よりも早く映画を見るために朝4時に起きては試写に出かけ、ミニシアター文化を今自分が担っているという謎のプライドを感じたのを覚えています。どこで何を見たのか、今でもはっきりと思い出すことができます(新宿シネマカリテの『コングレス未来学会議』、新橋文化劇場の『ハロルドとモード』、早稲田松竹の『地獄の黙示録』などなど、挙げだしたらキリがない!)。
さらに、ミニシアター文化は日本だけのものではありません。一人旅の途中で迷い込んだアラバマ州のミニシアターや、コートのポケットにシャンパンを隠して持ち込んだパリの映画館など、かけがえのない思い出の舞台となったミニシアターは世界中にたくさんあります。青春を生きる私のそばに常にミニシアターがあり、私はミニシアターと共に成長してきたのです。
ミニシアターを救え!広がる支援の輪
そんなミニシアターが今苦境に立たされています。もちろん、新型コロナウイルスの影響は大きく、被害を受けていないビジネスはほとんどありません。しかし、小規模な独立系映画館は数年前からすでに動画配信サービスや大手シネコンとの激しい競争の中で骨を折っており、閉館も相次いできました。今回のパンデミックは傷口に塩を塗るようなもの。さらに多くのミニシアターが廃業に追い込まれてしまうのではないか―そんな不安を抱えた映画関係者や映画好きの間で、この状況を何とかしようという動きが生まれています。
例えば、ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金やSaveTheCinema 「ミニシアターを救え!」といったクラウドファンディングプロジェクト・署名活動が立ち上がったり、オンライン映画館「STAY HOME MINI-THEATER」が開館したり。そして、今回ご紹介する「仮設の映画館」のような画期的な企画も誕生しています。
いま脅威にさらされているのは、観客、劇場、配給、製作者によってまわっている「映画の経済」です。では、新作映画を楽しみにしている観客、劇場、配給、製作者、みんなにとって何かよいことができないか。新作『精神0』の公開を控えた想田和弘監督と配給会社東風のスタッフで相談しました。
そこで予定していた劇場公開と並行して、インターネット上に「仮設の映画館」をつくってみることにしました。
―合同会社東風 [出典]
「仮設の映画館」の仕組み
「仮設の映画館」は、映画配給会社東風と新作『精神0』の公開を控えた想田和弘監督が発起人となって立ち上がったオンラインミニシアターです。全国のミニシアターでこの春公開予定だった新作を、有料・期間限定で配信します。
一般的な動画配信サービスと異なる点は、「映画館」に行くという経験を中心に添えていること。鑑賞者は、見たい映画と同時に「どの映画館で見るか」を選択することができます。料金は一般的な当日料金である1,800円に設定されており、通常通り映画館と配給会社に5:5で分配されます。
「仮設の映画館」には北海道から沖縄まで全国のミニシアターが参加しており、映画を見ることで自分の好きな映画館を直接支援できるのです。地元の映画館でもよし、懐かしのミニシアターを選ぶもよし、行ったことのない憧れの映画館で見てもよし!楽しみ方は無限大です。さらに上映作品は全部で11作。海外の映画賞受賞作から国内のドキュメンタリーまで、多種多様なジャンルを楽しめます。
上映作品
『春を告げる町』(4/25~)、『精神0』(5/2~)、『巡礼の約束』(5/2~)、『タレンタイム~優しい歌』(5/2~)、『グリーン・ライ~エコの嘘~』(5/2~)、『どこへ出しても恥ずかしい人』(5/2~)、『だってしょうがないじゃない』(5/2~)、『島にて』(5/8~)、『タゴール・ソングス』(5月上旬~)、『プリズン・サークル』(5/16~)、『タッチ・ミー・ノット~ローラと秘密のカウンセリング~』(6/6〜)
不安な今こそ見てほしい『タゴール・ソングス』
中でも私が特におすすめしたいのが『タゴール・ソングス』です。
非西欧圏で初めてノーベル文学賞を受賞したラビンドラナート・タゴール。イギリス植民地時代のインドを生きたこの大詩人は、詩だけでなく歌も作っており、その数は二千曲以上にものぼります。「タゴール・ソング」と総称されるその歌々はベンガルの自然、祈り、愛、喜び、悲しみなどを主題とし、ベンガル人の単調であった生活を彩りました。そしてタゴール・ソングは100年以上の時を超えた今もなお、ベンガルの人々に深く愛されています。なぜベンガル人はタゴールの歌にこれほど心を惹かれるのでしょうか。歌が生きるインド、バングラデシュの地を旅しながらその魅力を掘り起こすドキュメンタリー。[出典]
「100年前に生きたインドの詩人のドキュメンタリー」と聞くと、なんだか敷居が高いように感じるかもしれません。実際、日本ではタゴールの存在を知る人自体あまりいないかもしれませんね。しかし、この映画で描かれるのは、ベンガル地方で「いま」を生きる人々の日常。人間ならだれもが直面する葛藤や苦しみを乗り越えるために、タゴールの言葉に自分の心を重ねて歌を歌う人々の姿は、とても身近で親近感がわきます。
インドやバングラデシュに興味のある人なら、『タゴール・ソングス』で映し出されるベンガルの風景を眺めるだけでも楽しめるでしょう。また、旅行ができない今、異国の情景を映した本作はまるで旅をしているような気持ちにさせてくれるはずです。さらに、歌に焦点を当てた映画は音楽好きにも最適。
しかし、『タゴール・ソングス』の魅力は、コロナ禍のいまを生き抜くヒントが隠されているということです。先行きが見えず不安が大きくなる今こそ、過去の偉人はどのようにして苦労を乗り越えてきたのかを知ることには大きな価値があります。タゴールが残してくれたのは、時代が変わっても力を持ち続ける「人生のアドバイス」なのではないかと思います。人類は何千年という時の中で数々の辛苦を生き抜き、そしてその経験を未来の世代に伝えてきたのです。
『タゴール・ソングス』で歌われる歌の中で、特に印象的なのが「ひとりで進め」というもの。逆境にあっても、周りからのサポートがなくても、正しいと思う方向に向かって進んでいくことを勇気づけてくれる歌です。
今回、イエモネのために特別に『タゴール・ソングス』の監督でありベンガル語翻訳者の佐々木美佳さんが「ひとりで進め」の日本語訳を提供してくださいました!
もし君の呼び声に誰も答えなくても ひとりで進め
ひとりで進め ひとりで進め
もし 誰もが口を閉ざすのなら
もし 皆が顔を背けて 恐れるのなら
それでも君は心開いて
本当の言葉を ひとりで語れ
もし君の呼び声に誰も答えなくても ひとりで進め
もし 皆が引き返すのなら
君が険しい道を進むときに
誰も気に留めないのなら
茨の道を 血にまみれた足で踏みしめて進め
もし君の呼び声に誰も答えなくとも ひとりで進め
もし光が差し込まないのなら
嵐の夜に扉を閉ざすのなら
それでも君はひとり雷で
あばら骨を燃やしながら 進み続けろ
―ラビンドラナート・タゴール(1861‐1941)
翻訳:佐々木美佳(『タゴール・ソングス』監督)
あくまで「仮設の」映画館
さらに、佐々木監督は「仮設の映画館」でドキュメンタリー『春を告げる町』を鑑賞した経験についてもシェアしてくださいました。
通常料金の1,800円を払っている分、集中して見ようという気持ちになります。ネットフリックスなどでは見始めてすぐに離脱してしまうことも多いんですけどね。今回はちゃんと部屋を暗くして、最近買ったスピーカーをつないで、できるだけ映画館に近い環境で見ました。
―佐々木美佳(『タゴール・ソングス』監督)
確かに、近年は動画配信サービスなどの普及でいつでも簡単に自宅で映画を見られるようになりました。特に自宅で過ごす時間が多い今、毎日何らかの映画やドラマを見ない人はいないと言っても過言ではありません。
しかし、それだけ映画が身近になった分だけ、2時間しっかりと集中して映画鑑賞をすることは少なくなったかと思います。自宅に設置した「仮設の映画館」で、映画と自分だけの邪魔されない時間を過ごすのは、なかなか新鮮でよい気分転換になるのではないでしょうか。映画の始まりにオリジナルのマナーCMが流れるのも面白いところ!
ただもちろん「仮設の映画館」はミニシアター経験を完全に再現するものではありません。本当は、実際に映画館に足を運ぶ体験に代わるものはないのです。しかし、それができない今、映画が生き続けるためにはこのような企画が必要なのではないでしょうか。
だからあくまでも「仮設の」映画館。そのゴールは「閉じること」にあると、配給会社東風代表の木下繁貴さんは語ります。
「仮設の映画館」の目標は、先ほど言ったように「閉じること」なんです。コロナの影響は、もしかしたら新作映画でもオンライン同時配信という流れを作るかもしれません。でも、映画を映画館で観る体験はずっとあってほしい。ですから、これはあくまでも仮の施設なんですよ、ということは強調しておきたかったんです。
―木下繁貴(配給会社東風代表)[出典]
日常生活が戻ったときに、再びミニシアターの椅子に埋もれて映画とのランデブーを楽しむことができるように―そのために、いま、自宅で映画を見ませんか。
【参考】
「仮設の映画館」公式サイト
『タゴール・ソングス』公式サイト
「Stay Home Mini-Theater」公式サイト
「SAVE the CINEMA」公式サイト
「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」クラウドファンディングページ
【参考記事】
「オンライン映画館」も始まった。斎藤工さん監督作品などを上映、チケット代はミニシアター基金に寄付も [Huffington Postで読む]
第二回「映画までの距離」東風・渡辺祐一さんに話を聞く [NOBODYで読む]
「公開延期も選択肢にあった」新作をオンライン配信「仮設の映画館」を立ち上げるまで 配給会社「東風」代表・木下繁貴さんインタビュー [文春オンラインで読む]
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ベロワ ニーナ
Nina Belova/ライター/翻訳者
北海道生まれ、福井県育ちのロシア人。東京大学地域文化研究北アメリカコースを卒業後、アメリカに移住。現在はフリーランスのライター・翻訳者として活動し、執筆分野は金融・技術・旅行・歴史など多岐にわたる。アメリカの田舎で夫・猫とともに自由なヒッピー生活を満喫中。
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