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倉田直子

POSTED BY ライター/タイニーハウス・ウォッチャー 倉田直子 掲載日: JAN 26TH, 2020.

小さな家の豊かな暮らし【18】温室が街のコミュニティ・スペースに

「タイニーハウス」をご存知ですか? 様々なとらえかたがある言葉ですが、だいたい20平方メートル程度の小さな家を意味します。さらに、車でけん引できるモバイルハウスであることも。いま世界中でこのタイニーハウスの愛好者や、タイニーハウス生活を夢見る人々が増えていて、「タイニーハウス・ムーブメント」を巻き起こしています。このシリーズでは、オランダでタイニーハウス生活を営む人々や、素敵なタイニーハウスをご紹介します。

「タイニーハウス・ムーブメント」とは?

温室コミュニティスペース「Kas Keerweer」
温室コミュニティスペース「Kas Keerweer」
(c)Naoko Kurata

タイニーハウス・ムーブメントのきっかけは、2008年に発生した世界規模の金融危機「リーマン・ショック」だと言われています。この経済危機をきっかけに、「豊かさってなんだろう」「家ってなんだろう」「本当に必要なモノは何?」と多くの人が考えるようになったのです。そこからタイニーハウス生活が注目を浴びるようになりました。必要最低限のものだけを所有し、ローンのいらない小さな家に住む。そんな「小さくても豊かな暮らし」は、欧州オランダにも伝わりました。

今回は、街中の「温室」をコミュニティスペースとして再生させたストーリーを紹介させてください。

緑あふれる都会のオアシス

存在を知らなければ、通り過ぎてしまう入り口
存在を知らなければ、通り過ぎてしまう入り口
(c)Naoko Kurata

大都会アムステルダムの真ん中に、「温室が存在する」と聞いたら信じられますか?外からは全くうかがい知れませんが、このフェンスの奥にその「温室」は佇んでいます。

「Kas Keerweer」外観
「Kas Keerweer」外観
(c)Naoko Kurata
「Kas Keerweer」の看板
「Kas Keerweer」の看板
(c)Naoko Kurata

この施設の名前は、「Kas Keerweer」。中庭もあり、都会のオアシスとでもいうような風貌をしています。
早速、中を見てみましょう。

植物におおわれた癒しの空間

「Kas Keerweer」の内部
「Kas Keerweer」の内部
(c)Naoko Kurata

外からは普通の温室にしか見えなかった建物は、素敵なホールとして近所の人々に活用されています。やさしい陽光が一枚板のテーブルにさしこみ、何とも心地よい雰囲気を醸し出しています。

ぶどう棚が自然のサンシェードに
ぶどう棚が自然のサンシェードに
(c)Naoko Kurata

けれどガラスの壁面や天井のぶどう棚には、確かに温室らしさが残されています。特に天井のぶどうの葉やつるは、夏の日差しをさえぎり、ガラスの温室に涼しい日陰を作ってくれているのです。

収穫された自家製ぶどう
収穫された自家製ぶどう
(c)Naoko Kurata

もちろん、そのぶどうは美味しくいただくこともOK。食べられるサンシェードなんて最高ですね。

ボランティア主導のリノベーション

かつては荒廃していた「Kas Keerweer」
かつては荒廃していた「Kas Keerweer」
(c) Kas Keerweer

実はこの「Kas Keerweer」は、アムステルダム市の所有でありながら、長らく使われていない、廃墟のような温室だったのだとか。当時の画像には、今の素敵なホールの面影は全くありません。

ボランティアがリノベーションを手掛けた
ボランティアがリノベーションを手掛けた
(c) Kas Keerweer

けれど、「こんなに素敵な温室を活用しないのはもったいない」「近隣住人のための、緑あふれる場所にしよう」とボランティアたちの手によってリノベーションされることになったのです。そして満を持して2015年に、「Kas Keerweer」は近隣の住人のための美しいコミュニティ・スペースとして生まれ変わりました。

様々なイベントに活用される「Kas Keerweer」

「Kas Keerweer」でのフリーマーケット
「Kas Keerweer」でのフリーマーケット
(c) Kas Keerweer
ところ狭しと並べられる商品たち
ところ狭しと並べられる商品たち
(c) Kas Keerweer

「Kas Keerweer」は、自治体とボランティアの共同運営。利用のされ方は多種多様で、フリーマーケットが開かれたり、ジャズのミニコンサートの会場として使われたりしています。

プロパンガスの調理台
プロパンガスの調理台
(c)Naoko Kurata
「Kas Keerweer」でのパーティーの様子
「Kas Keerweer」でのパーティーの様子
(c)Naoko Kurata

水が扱えるシンクと、プロパンボンベに接続したコンロがあるので、パーティ会場としても十分機能します。立食パーティーはもちろん、フォーマルディナーにも問題なく対応しています。トイレも、敷地内にある別棟の小屋にあるので大丈夫。

「Kas Keerweer」の外観
「Kas Keerweer」の外観
(c)Naoko Kurata

都会の喧騒の中にありながら、緑のオアシスのように佇む「Kas Keerweer」。この温室コミュニティ・スペースのストーリーには、使われなくなった施設を再利用するためのヒントが沢山つまっていますね。こんな素敵な場所が、ここだけではなく世界中の街に生まれていって欲しいものです。

[Kas Keerweer]

>>>バックナンバーはこちら
【連載】小さな家の豊かな暮らし〜オランダ発 タイニーハウス 〜

>>>【いくらで建てられる?】夢のデザイナーズハウス

倉田直子

Naoko Kurata/ライター/タイニーハウス・ウォッチャー

2004年にライターとしてデビュー。北アフリカのリビア、イギリスのスコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主にオランダの文化・教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係について執筆している。著書「日本人家族が体験した、オランダの小学校での2年間

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