「タイニーハウス」をご存知ですか?様々なとらえかたがある言葉ですが、だいたい20平方メートル程度の小さな家を意味します。さらに、車でけん引できるモバイルハウスであることも。いま世界中でこのタイニーハウスの愛好者や、タイニーハウス生活を夢見る人々が増えていて、「タイニーハウス・ムーブメント」を巻き起こしています。このシリーズでは、オランダでタイニーハウス生活を営む人々や、素敵なタイニーハウスをご紹介します。
「タイニーハウス・ムーブメント」とは?
タイニーハウス・ムーブメントのきっかけは、2008年に発生した世界規模の金融危機「リーマン・ショック」だと言われています。
この経済危機をきっかけに、「豊かさってなんだろう」「家ってなんだろう」「本当に必要なモノは何?」と多くの人が考えるようになったのです。
そこからタイニーハウス生活が注目を浴びるようになりました。必要最低限のものだけを所有し、ローンのいらない小さな家に住む。そんな「小さくても豊かな暮らし」は、欧州オランダにも伝わりました。
オランダのタイニーハウス居住者たちは、主に自作のDYIハウスやこだわりのオーダーメイド住宅にお住いのことが多いです。けれど、こんな大量生産(?)のタイニーハウスも存在します。都会に住む学生の強い味方なんですよ。
丈夫で使い勝手のよいコンテナ
物流業界には欠かせない存在の「コンテナ」。貨物輸送に用いる金属製の大型容器で、物品を主に大型船などで輸送する際に用いられます。統一規格があるので、いくつも積み上げることもOK。
船上ではコンテナは、直接雨風にさらされています。さらに何度も使いまわすので、反復使用に耐えうる強度を備えていなくてはなりません。
そういった耐久性や収容力、使い勝手のよさが注目され、近年ではそのコンテナを用いたオフィスや店舗も登場するようになりました。けれどオランダの首都アムステルダムでは、世界をあっと言わせるコンテナの活用法を打ち出したんです。それは何かといいますと……。
アムステルダムの巨大なコンテナハウスの学生寮
実はそれは、コンテナを利用した学生寮。コンテナの特性を利用して、人口過密による住宅不足に悩むアムステルダムに巨大な学生寮を誕生させたんです。側道から眺めると、工事現場か物流倉庫にしか見えませんね。
ここあるのは、すべてコンテナハウスなんです!1000人以上の学生が入居しているそうです。壮大ですね!ここまで大規模なコンテナハウスの集合住宅は、世界初の試みだったのだとか。
かつて入居者のロクサーナさんという学生さん(当時)に、住み心地を教えてもらったことがあるので、室内も特別にご紹介します!普段見ることのできないコンテナハウスの生活を垣間見させてもらいましょう!
コンテナハウス学生寮の住み心地
ロクサーナさんが住んでいたのは、横幅2,5メートル、床面積25平方メートルの部屋。エントランスから最初に目に入るのは、ダイニングスペースとミニキッチンです。キッチンには、ミニ冷蔵庫も備え付けられています。その少し奥に見えるのが、トイレとシャワーのあるバスルーム。
バスルームがせり出し、自然な目隠しになっているスペースの奥には、プライベートな空間が。ベッドにチェストにソファと、リラックスするのに必要な家具がすべてそろっています。快適そうですよね。本当にここは、コンテナハウスなの?
ちなみに、ロクサーナさんはこのコンテナハウスの住み心地を「100点満点でいえば、75点くらい」と採点してくれました。ロクサーナさんのご実家は郊外にあり、大家族で大きな家に住んでいたので、1人で暮らす生活そのものにまだ慣れていないのだそう。けれど、このコンテナハウスは一人暮らしには十分なスペースがあるし、他の学生が同じ敷地内に住んでいるのは楽しいので特に不満はないのだとか。
ロクサーナさんがこの学生寮を選んだ理由は2つあります。それはまず、通っている大学に近く、公共交通機関にもアクセスがいい点。アムステルダムの中心街からメトロですぐという、学業にも私生活の充実にも便利な立地なのです。
そしてもうひとつの理由は、賃料の安さ。アムステルダムの一般的な家賃は学生には非常に高額ですが、コンテナハウスの家賃は、学生でも何とか工面できる金額なのです。ロクサーナさんが住んでいた当時のこの学生寮の家賃は月額475ユーロ(2019年9月現在、約5万6千698円)でした。けれどそこに自治体からの家賃補助が175ユーロついたので、自己負担額は月300ユーロ(同約3万5千809円)だったのだとか。そのお値段でこの住み心地は全然ありですよね。
コンテナハウスで大変なこと
入居前は、「狭くて暮らしづらいんじゃないか」「隣近所の騒音がうるさいんじゃないか」と気にしていたというロクサーナさん。けれど、家具を工夫すれば一人暮らしには十分な広さだし、バスルームもしっかりあるので不自由はないのだそう。騒音も、コンテナ同士がしっかり独立しているので、生活音は全く気にならないのだとか。
どこかの部屋でパーティをするようなときも事前に声をかけあったり、寮のフェイスブックのグループページで告知されているので、事前に対策を取れるのです。システマチックですね。
そして、シャワーのお湯タンクが小さいのも当初は残念ポイントだったそう。最初の頃は、シャワーの途中でお湯が足りなくなったりしてイライラしてしまったと語ってくれました。けれどしばらくすれば要領も分かってきたので、それは乗り越えられたのだそう。よかった。
ただロクサーナさんとしては、やはり自分が生まれ育ったような「普通の家」の住み心地は捨てがたいそう。オランダでは「コンテナハウスは学生のためのもの」というイメージが強いので、社会人になってからは一般的な家に引っ越したいのだとか。
こんなに暮らしやすそうなのに、コンテナハウスを学生だけのものにしておくのはもったいないのではないでしょうか。ぜひ、オランダでも今後のイメージ向上に期待したいです。
>>>【連載】小さな家の豊かな暮らし〜オランダ発 タイニーハウス 〜はこちら
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倉田直子
Naoko Kurata/ライター/タイニーハウス・ウォッチャー
2004年にライターとしてデビュー。北アフリカのリビア、イギリスのスコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主にオランダの文化・教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係について執筆している。著書「日本人家族が体験した、オランダの小学校での2年間」
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