「タイニーハウス」をご存知ですか? 様々なとらえかたがある言葉ですが、だいたい20平方メートル程度の小さな家を意味します。さらに、車でけん引できるモバイルハウスであることも。いま世界中でこのタイニーハウスの愛好者や、タイニーハウス生活を夢見る人々が増えていて、「タイニーハウス・ムーブメント」を巻き起こしています。このシリーズでは、オランダでタイニーハウス生活を営む人々や、素敵なタイニーハウスをご紹介します。
「タイニーハウス・ムーブメント」とは?
タイニーハウス・ムーブメントのきっかけは、2008年に発生した世界規模の金融危機「リーマン・ショック」だと言われています。この経済危機をきっかけに、「豊かさってなんだろう」「家ってなんだろう」「本当に必要なモノは何?」と多くの人が考えるようになったのです。そこからタイニーハウス生活が注目を浴びるようになりました。必要最低限のものだけを所有し、ローンのいらない小さな家に住む。そんな「小さくても豊かな暮らし」は、欧州オランダにも伝わりました。
今回は、前回ご紹介した「水上のモバイルハウス」ハウスボートを、よりエコロジカルにアレンジして生活する人々の紹介です。
ハウスボートのトレンドは箱型
前回ご紹介したハウスボートは、昔ながらのオーソドックスな基本形でした。けれどああいった「完全に船」という形状以外にも、「シャーク」という通称をもつ「船に箱を乗せたような形状のハウスボート」が存在するんです。
そして最近の主流は、この「箱舟」と呼ばれる長方体のハウスボート。これ自体にはエンジンはついていないので、移動の際は別の船でけん引することになります。
ハウスボートには屋根裏が無いことが多いので、室内の気温は屋根に当たる日光から、ダイレクトに影響を受けます。冬ならまだしも、屋根に照り付ける夏の直射日光は、時に健康を脅かすことになりかねません。日本よりは夏場も過ごしやすいオランダですが、近年では温暖化の影響でうだるような暑さの日も増えてきています。
そんな中、とあるムーブメントがハウスボート住人たちの間で生まれてきました。とある住人のストーリーをシェアさせて下さい。
水上のタイニーハウス「ハウスボート」の屋上緑化
首都アムステルダムのハウスボートに引っ越してきたビルジテ・ビーツさん(Birgitte Beets)は、その水上の家の屋根の断熱効果が非常に弱いことに気が付きました。更に、外から見下ろすと屋根が汚れているのも不満だったのだそう。
地球環境のことを考えると、エアコンには頼りたくないと考えたビルジテさん。そんな彼女の悩みを解決したのは、とある雑誌で見かけた「屋上を緑化させると屋根の断熱性が向上し、夏には気温が5度下がる」という内容の広告。それを見たビルジテさんは、すぐにアムステルダムの自治体に助成金を請求します。自治体は申請を無事に承認し、必要経費の50%を負担してくれることになったのだそう。
3時間でできるハウスボート緑化
オランダの屋上緑化を推進する「Rooftop Revolution」とハウスボートの屋上緑化を進める「Grachten van Smaragd」いう団体のサポートもあり、ビルジテさんのハウスボートの屋根は2017年3月のとある週末に、無事に緑化されました! 思い立ってから実現までたった1か月の、スピード感あふれるプロジェクトだったそう。
上の画像が、緑化されたビルジテさんのハウスボートの屋根。このリノベーションは近隣住民の注目を集めました。「ハウスボートの屋根を緑化することは、環境にいいのはもちろん、目でも楽しめるね!」と、周囲からの評判も上々です。
その時の実際の動画から、どのような手順で屋上緑化が行われたのか見ることもできます。いくら早回しのようなタイムラプス動画とはいえ、その手軽さとスピード感は驚きです。実際には、朝の9時半に作業スタートし、12時15分には完成したのだそう。3時間でできてしまうのですね!
日本にもある、屋上緑化の助成金
2025年にアムステルダム市の創立750周年を迎えるにあたり、前述の「Grachten van Smaragd」は「2500軒のハウスボートの屋根を緑化しよう」というムーブメントを推進しています。「Rooftop Revolution」と共に、アムステルダム市内のいくつかの地域で屋上緑化のための住民説明会も開催しているのだそう。何名かのハウスボート・オーナーは既に、補助金申請に取り組んでいます。地球環境のためにも、美しいアムステルダムの景観のためにも、ぜひ2500軒の屋上緑化を実現して欲しいと思います。
日本にも、アムステルダム市のように一部自治体で屋上緑化のための補助金を出してくれることがあります。各自治体のホームページからも検索できますが、全国の助成金情報を取りまとめてくれているサイトも存在します。ご興味ある場合は、ぜひお住いの自治体を検索してみてください。
環境問題と、都市景観の双方に貢献できる屋上緑化。日本でもオランダでも、生活の場である家が環境に貢献できるなんて、こんなにうれしいことはありませんね。
[Amsterdam is een groen dak rijker]
[Grachten van Smaragd]
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【連載】小さな家の豊かな暮らし〜オランダ発 タイニーハウス 〜
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倉田直子
Naoko Kurata/ライター/タイニーハウス・ウォッチャー
2004年にライターとしてデビュー。北アフリカのリビア、イギリスのスコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主にオランダの文化・教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係について執筆している。著書「日本人家族が体験した、オランダの小学校での2年間」
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