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倉田直子

POSTED BY ライター/タイニーハウス・ウォッチャー 倉田直子 掲載日: DEC 8TH, 2019.

小さな家の豊かな暮らし【11】運河に住める「ハウスボート」

「タイニーハウス」をご存知ですか? 様々なとらえかたがある言葉ですが、だいたい20平方メートル程度の小さな家を意味します。さらに、車でけん引できるモバイルハウスであることも。いま世界中でこのタイニーハウスの愛好者や、タイニーハウス生活を夢見る人々が増えていて、「タイニーハウス・ムーブメント」を巻き起こしています。このシリーズでは、オランダでタイニーハウス生活を営む人々や、素敵なタイニーハウスをご紹介します。

「タイニーハウス・ムーブメント」とは?

ハウスボート博物館
ハウスボート博物館
(c)Naoko Kurata

タイニーハウス・ムーブメントのきっかけは、2008年に発生した世界規模の金融危機「リーマン・ショック」だと言われています。この経済危機をきっかけに、「豊かさってなんだろう」「家ってなんだろう」「本当に必要なモノは何?」と多くの人が考えるようになったのです。そこからタイニーハウス生活が注目を浴びるようになりました。必要最低限のものだけを所有し、ローンのいらない小さな家に住む。そんな「小さくても豊かな暮らし」は、欧州オランダにも伝わりました。
タイニーハウスは、車でけん引できるモバイルハウス(持ち運びできる家)のことがほとんど。けれど今回は、地上ではなく水上のモバイルハウス「ハウスボート」の紹介です。

運河とともに生きる人々

アムステルダムの運河に係留するハウスボートたち
アムステルダムの運河に係留するハウスボートたち
(c)Naoko Kurata

オランダは、国中に運河がはりめぐらされた国。首都アムステルダムを初め、デンハーグやユトレヒトなど、都市の運河はその美しさで人々を魅了し続けています。「ハウスボート」とは、そんな運河に浮かぶ「居住型の船」のことを指します。オランダ語では「woonboot」(住むボート)と表現。このハウスボートとオランダ人の付き合いは長く、なんと1652年のアムステルダム市議会の記録から、この頃からすでにハウスボートは運河に係留していたことが推測できるのだとか。
現在はオランダ全土で約1万世帯、アムステルダムだけで約2千500世帯ものハウスボートが、住居として登録されています。

ハウスボートでの快適な暮らし

「ハウスボート博物館」の入り口
「ハウスボート博物館」の入り口
(c)Naoko Kurata

1960年代からハウスボートとして使われていた船を、博物館にし公開している「ハウスボート博物館」がアムステルダムにあります。

ハウスボートのキッチン
ハウスボートのキッチン
(c)Naoko Kurata

まず入り口を入ると、キッチンが。いまでは博物館の受付コーナーとして使われていますが、かつては使い勝手が良さそうな台所だったと見て取れます。

ダイニングには薪ストーブが
ダイニングには薪ストーブが
(c)Naoko Kurata

天窓から光が注ぐリビング
天窓から光が注ぐリビング
(c)Naoko Kurata

ダイニングスペースや暖炉、家族団らんのためのリビングコーナーも確保されています。普通に素敵な住宅ですね。言われなければ、これが船の中だなんて分からないのではないでしょうか。

ハウスボートにも立派なベッドが
ハウスボートにも立派なベッドが
(c)Naoko Kurata

もちろん、ベッドとトイレ&シャワーも完備されています。この空間は先ほどのメインホールとは区切られているので、プライバシーの考慮も感じ取れる設計です。

ちなみにこのハウスボートは、幅4.5メートルで長さは23.3メートル。居住可能面積は約80平方メートルにもなるそう。外観から感じる印象よりも、はるかに広々としています。地上のモバイルハウスでは実現できない広さです。
この美術館を見学すると、ボートでの暮らしが驚くほど「普通で快適」だったことが分かると思います。

停泊場所には制限が

運河に係留するハウスボートたち
運河に係留するハウスボートたち
(c)Naoko Kurata

 

そんな素敵なハウスボート生活ですが、好き勝手に始められるわけではありません。ボートを係留できる場所は自治体が厳密に決めているので、ボートの持ち主は自治体に正規の住所(係留する場所)を登録する必要があります。そうすれば電気や上下水道も引けるので、インフラに関しては地上と変わらない生活が送れるのです。ちゃんと家として認められているので、郵便物もきちんと配達してくれます。

いまではどの街でも、運河における係留場所は常に満員なのだとか。新規の係留許可が政府から降りなくなってしまったため、現存するハウスボートを売買や賃貸で回さなくてはいけないのです。なんとハウスボート専門の仲介業者も存在するんですよ。そんな人気ぶりと維持費の高騰で、ハウスボートは今ではステータス物件になってしまいました。
メンテナンス費や税金含む諸経費もかなりかかるので、気軽に住める物件ではなさそうです。

お祭りには、ボートで楽しむ人々が
(C)Shutterstock.com

けれど、様々なフェスティバルでのボートパレードを一番身近にダイナミックに体験できるハウスボートは、やっぱりオランダ人の憧れの存在。物件の人気は、しばらく続きそうです。

アムステルダムに係留するハウスボートの中には、民泊仲介サイトを通して宿泊できる場所もあります。アムステルダム観光の際には、「この街らしさ」を堪能するために、そういう場所で寝泊まりしてみるのもおすすめです。

[A Photo by Shutterstock.com]
[Houseboat Museum]

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【連載】小さな家の豊かな暮らし〜オランダ発 タイニーハウス 〜

倉田直子

Naoko Kurata/ライター/タイニーハウス・ウォッチャー

2004年にライターとしてデビュー。北アフリカのリビア、イギリスのスコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主にオランダの文化・教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係について執筆している。著書「日本人家族が体験した、オランダの小学校での2年間

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